大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和28年(ネ)700号 判決 1961年1月31日

控訴人 古川浩

被控訴人 株式会社新大阪ホテル

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴会社が昭和二十六年八月二十五日、大阪商工会議所において、開催した臨時株主総会でなした定款変更決議のうち、第七条第四項第三号「三、全部を一時に償還せざるときは、償還金額は特種株主全部に按分す」及び同条第五項中「全額償還の場合は」「一時償還の場合は株券にその旨の記載を受け」「全部若くは残額全部の」との部分を除き、その余の部分の無効なることを、確認する、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を、被控訴人は本件控訴を棄却する(被控訴人の答弁書並びに附帯控訴状によれば原判決を取消し、控訴人の請求を棄却するとあるも、これは附帯控訴をなしたためであつて、右附帯控訴はその後取下げられたので、結局控訴人の控訴に対する答弁としては上記のような趣旨に帰する)訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は、

控訴人において、本件定款変更の決議中にある定款第八条は、株主の新株引受権に関するものであるが、これは被控訴人主張のように、株主に新株引受権を与えないことを前提とする趣旨とは、解し難いのみならず、仮りに右のような前提の下に、右第八条が「新株引受権は取締役会の定めるところによる」と規定したものとしても、そもそも取締役会が、割当自由の原則によつて、何人に対しても、新株の割当、引受せしめることのできるのは、普通一般の株式募集の手続による場合であつて、新株引受権は、取締役会の決議で与え得るものではない。新株引受権は、株主の直接重大な利益に関するものであるから、たとえ株主総会の決議をもつてしても、定款に規定しても、これについての権能を取締役会に移譲することはできない。被控訴会社、取締役会は、右規定によつて、何人に対しても、新株を引受けしむるも可なりとして、事実上特定の第三者である、四銀行、三保険会社に十二万株の特種株全部を引受けしめたもので、商法第三百四十七条第二項末尾の規定によつて、特定の第三者に新株引受権を与える旨の定款の条項を欠く被控訴会社においては、この点よりするも、前示決議は無効である。

また、仮りに右定款第八条が原判決のいうごとく「有益的記載事項」であるとしても、法は明かに「増加すべき株主につき、定款をもつて、株主に対し、新株引受権を与え、制限し、又は排斥する旨……を定むることを要する」と規定しているから、前示第八条のように「新株引受権は取締役会の定めるところによる」というがごときは法に違反するものであつて、これを与えるとすれば、株主総会の決議によりその旨を定款に定めなければならない。しかもその定めは一般普通人から見て判り得るように明確でなければならないにもかかわらず、原判決はこの点について、「本件のごとく、定款に形式的には、全く新株引受権の有無、又は制限に関する記載を欠いている場合でも、他に何等かの有効な記載から、それが容易に推知できるならば」というが、右第八条には他に何等有効な記載はないのであるから、いずれの点より見ても、右第八条についての被控訴会社株主総会の決議は無効というべきである。

また原判決は、定款第七条について、この規定は、償還株式の発行の授権と共にこれを償還したときは、同数の普通株式を発行することを授権したものというのである。しかし被控訴会社の定款第五条は、「当会社が発行する株式の総数は二十四万株とする」と定め、また同第七条においては、「当会社の発行する株式は、内十二万株は普通株式 十二万株は特種株式とする……特種株式は、償還株式とし」と定めて、授権の株式数を明かにしているのであるから、原判決の見解は、商法第三百四十七条の規定する会社の発行すべき株式総数の増加の授権を不可分的に必要とするにかかわらず、これを欠くこととなり、この点に関する決議もまた無効といわねばならないと主張した外、原判決事実記載の関係部分(すなわち、前示控訴人の当審において請求せざる定款変更決議及び役員報酬増加についての決議を除いたその余の部分)と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人が被控訴会社の五十株の株主であつて、被控訴会社が昭和二十六年八月二十五日大阪商工会議所において、臨時株主総会を開催し、控訴人主張のような内容の第一号議案(定款変更の件)を提出し、同議案が原案どおり可決されたことは、当事者間に争がない。

控訴人は右決議の内容に違法があると主張するから順次判断する。

一  定款第八条新株引受権に関する規定について、

控訴人は右定款第八条が「当会社は、取締役会の決議により、株主に対して新株引受権を与えることを得るものとす」と規定しているのは当時の商法(以下旧商法と略称する)第三百四十七条第二項において、株主に対し新株引受権を与え、制限し、又は排斥する旨を定款に規定しなければならないとあるに反し無効であると主張する。しかし商法はその後昭和三十年法律第二十八号をもつて一部改正せられ、(以下新商法と略称する)新商法は同年七月一日から施行せられたのであるが、その第二百八十条の二において、新株引受権を株主に与えるのには、定款に別段の規定のない限り、取締役会の決議によることとしているから、前示定款第八条に関する決議は、新商法に規定するところと同趣旨の内容を有することとなつたわけである。従つて仮りに、右決議の内容が旧商法に照して無効であるとするも、新商法施行後は有効となり、今やこれが無効確認を求めるのは結局理由なきに帰するものというべきである。

控訴人は、被控訴会社取締役会が、右定款の規定に基いて、第三者に新株引受権を与えた事実をとらえて、旧商法第三百四十七条第二項末尾による定款の規定のない被控訴会社においては、右決議は無効であるといわんとするが、かかる事実があつたとしても、このことは前示定款変更の決議自体の効力に何等影響のあるものではない。

二  定款第七条特殊株式に関する規定について、

控訴人は、右定款第七条に規定する特殊株は、優先株であつて、かかる株式の株主は旧商法第三百四十七条第二項にいわゆる「特定の第三者」であるにかかわらず、何人をもつて第三者とするかを明かにしていない。のみならず普通株十二万株に対し、別に十二万株の優先株を発行することは、普通株主の利益を害し、株主全員の同意のない限り、かかる決議は無効である。さらに右第七条は特殊株式の償還方法について、一株の金額の内の一部の償還を認めているが、これは株主平等を害し、且つ定款第六条に反する、また特殊株式を償還株式とする旨のみを規定し、その償還基金が何であるかを規定しない、もし株主に配当すべき利益金をもつて消却する趣旨であるならば、同じく株主平等の原則に反する。なお右定款には償還基金の積立に関する規定を欠き、償還株式発行の必要条件を完備していないから、無効であると主張するが、その然らざることは、この点に関する原判決の判断どおりであるから、これを引用する。(原判決中新商法とあるは旧商法と改める)

次に控訴人は右定款第七条末項で、特殊株式を償還したときは、会社はその株式数と同数の普通株を発行し得る旨定めているのは、無効であるというが、償還株式を償還すれば、その数だけ再び未発行株式の数の増加することにはならないけれども、定款をもつて、再発行に関する特別の定めをすることが許されることは原判決のいうとおりであるから、この点に関する原判決の判断を引用する。

控訴人はもし然りとすれば、被控訴会社の定款第五条、第七条において、会社の発行し得る株式総数及びその種類を定めているのであるから、右定款第七条末項は、旧商法第三百四十七条の規定する会社の発行する株式総数の増加となるにかかわらず、これに関する定款の規定を欠くこととなり、結局右第七条末項についての決議は無効であると主張する。

なるほど前に判示したとおり右第七条末項の規定により償還株式を償還したときは、その数だけ未発行株式が増加することとならない結果、これと同数の普通株式を発行し得るとするときは、それだけ発行すべき普通株式延いて株式総数は増加するわけであるが、右償還株式を償還するときは、その数だけ普通株式を発行することができる旨の定款の規定従つてこれに関する決議には、当然株式数の増加についての決議をも包含しているものと見ることができるから、控訴人の右主張は採用できない。

以上のとおり本件控訴は理由がないから、訴訟費用について、民事訴訟法第八十九条、第九十五条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 石井末一 喜多勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例